次はフェニックス属のヤシのことを書くと前記事で書きましたが、まだワシントンヤシのことで書くことが沢山でてきました。
二種類のワシントンヤシの一方、メキシカン ファン パーム とか スカイ ダスター とこちらでは呼ばれる ロブスタさん(W. robusta)は、空を背景に軽やかにそびえる独特の魅力があります。ほぼ地元産 のヤシでもあることだし、思いっきり贔屓にすることにして、今回の投稿です。
下の写真は、ロサンゼルス市ハリウッド大通の W. robusta の街路樹です。
私が出かけて写したのではなく、Googleマップのストリートビューからの、スクリーンショットです。
2011年2月撮影 Google ストリートビュー Hollywood Boulevard, Los Angeles, CA |
この、ロサンゼルス市 つまり LA のヤシの木について、ネットでおもしろい記事がありました。
KCETのウェブサイト上の記事です。
KCETは、日本のNHKにあたるようなテレビ局であるPBS (Public Broadcasting Service) の、南カリフォルニアの地方局(すみません、どういう仕組みなのか知りません)です。
今回見つけたのはテレビ番組ではなく、ネット上で発表された記事のようです。
How Did L.A. Become a City of Palms? And Other Questions About California's Trees
by Nathan Masterson
January 23, 2014 6:00pm
“ LAはいかにしてヤシの都になったか? そしてカリフォルニアの樹木に関するその他の質問 ” というタイトルです。ヤシに関する部分を以下にかいつまんで紹介します(私のコメントも適当に混じってます)。
1920年代から30年代にかけて、W. robusta は大量にLAの街路樹として植えられたようです。
当時は、自動車という新しい交通手段に対応して道路網がどんどん発達していたという時代背景があります。その頃、主要な大通りに沢山(当記事では数千本、他のソースには数万本という記載がありました)の街路樹を植えることが計画され、実施されました。それは、1932年第十回LAオリンピックの開催を見据えて街を美化するためであり、また、不況脱出のための公共事業としての十年計画でもありました。
街路樹の選定にあたって、それまでの一般的な街路樹、例えばユーカリやアカシア、ペッパーツリーは、葉が繁り根が深く張るので敬遠されました。新しい道路は、道路わきに車が駐車し、歩道が付随し、また地中には下水管、頭上には電線が走ります。その点、ヤシの種類は、コンクリートを持ち上げることも無く、下水管を壊したり電線にあたったりせず、また、果実が落ちて歩道や駐車している車を汚すこともないので、新しい都市を象徴するインフラと考えられたのでした。
ヤシの中でも、圧倒的に沢山植えられたのは、我らが W. robusta、メキシカン ファン パーム でした。面白いのはこのヤシが選ばれた理由が、丈夫で値段が安かったからであり、決して、見た目がいいから、ではなかったのです。当時の関係者は、このヤシがかくも背が高く育つとは思ってもみなかったのだそうです。
そして時が経ち、W. robusta の背が高くなってゆくとともに、ヤシの木の下でハリウッドのエンターテイメント産業が栄えてゆきます。ロブスタさんの細長く空にそびえる姿は、ハリウッドが発信する映像にたびたび映しだされることになり、はからずも、自由で解放的な南カリフォルニアの空気を表現するのに無くてはならないものになってしまったのです。
これからも、当分の間は、LA と W. robusta の関係は変わりないとのことですが、おそらく今世紀後半には、ロブスタさんの姿がLAからほとんど無くなってしまうと予想されているのだそうです。
というのも、ほぼ同じ時期に植えられたW. robusta は、そのうち一斉に寿命(50~150年)が尽きて枯れることになるのですが、そのときにこの種類のヤシを再び植えないという方針を2006年にLA市議会が承認しているのだそうです(ただしハリウッド大通とサンセット大通りはこの限りではないとのこと、観光資源として価値があるから?)。
つまりそれは、街路樹にも自然環境に貢献してもらう時代になったということでしょう。そもそも、私が樹木の検索にありがたく使わせていただいている、カリフォルニア州立大学Cal Poly San Luis Obispo 校に、UFEI(Urban Forest Ecosystem Institute、無理やり訳すと、都会の森の生態系研究所)などという機関があることからも察せられるように、都市に木を植えるに当って考慮することの優先順位が変わってきたのです。
落ちた実が踏まれて潰れて汚くても、電線に触れないよう剪定するのにお金がかかっても(下水管のことは知りません)それよりも、空気をきれいにしたり、日陰をつくる役目が高く評価される時代になったのです。
ところで、W. robusta の代わりに、どうしてもヤシが植えたい人には、クイーン パーム というのが奨励されています。
そのうちクイーンパームの記事を書くつもりですが、今でもすでに、本当にイヤになるくらい、どこもここも、街路樹も、ショッピングセンターも、オフィスパークも、個人の家も クイーン パームだらけになってます。確かに、風にサヤサヤとそよぐ羽状の葉はたっぷりしていますが、なぜ奨励されているのか、までは知りません。
以上、W. robusta のヒストリーとストーリーでした。
この、ほぼローカルのヤシに、こんなローカルのヒストリーとストーリーがあるなんてすごいな、と思った次第です。
上記、KCETの記事をご覧頂くと、1930年当時のW. robusta の並木の写真があります。
1870年代に植えられた、とありますので、ブームの前からあった並木だということになります。
下の写真は、その同じ場所の今の様子です。公共の道路に面してないせいか、ストリート ビューは出ませんでした。
もう寿命が尽きるときが近いはず。
2014年 Google Map Satelite View Los Angeles, CA |
もう一回、ワシントンヤシ属のことを書くつもりです。
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2014年9月7日 勢い盛んな季節が過ぎて、ワシントンヤシ2種、W. filifera と W. robusta
ロブスターはLAの顔になってしまっていますからね^^
返信削除空港からもうロブスターが歓迎しているような街です、メキシカンパームのないLAなんて考えられないようになりました。
この品種は、関東以西の暖地ではあちこちに植栽されています。
返信削除和名はオキナヤシモドキです。
コメントありがとうございます。
削除確かにおっしゃるとおり、ちゃんとした日本語の名前があるんですよね。
ただ、ここでは、学名でワシントニア ロブスタ 略してロブスタさんと呼ぶことに勝手に決めちゃったのです。ワシントンヤシについての最初のエントリーに経緯を書いてます。
日本のヤシも機会があったらウォッチングしたいです。