2016年11月19日

案外, 南カリフォルニアの秋を象徴する木, フロス シルク ツリー (日本語名トックリキワタ)



夏の終わりから秋。

南カリフォルニアでは、一年で最も厳しい季節かもしれません。

雨の無い長い季節と夏の炎暑を経て、体の中にはカラカラでヘロヘロな疲労感が募っているところに、それに追い打ちをかけるように内陸から乾燥した熱風(サンタアナの風という)が吹き込んで日中の気温が異様に上昇することが繰り返される日々。



そんなサンタアナの風がふく日に、満開のピンクの花をつけた木を車で通り過ぎたらどんな気がしますか。


こんなのとか、

2016年10月25日 Orangethorpe Ave. Fullerton CA




 こんなのとか。
2016年10月20日 Dale Ave. Anaheim CA

私は、“もうやめてよ” って言いたくなります。頭の奥の方に隠れていた夏の疲れが強く意識されるような感じ。


日本育ちなので “満開のピンクの花は春の花”  という刷り込みがあるせいかもしれませんが、さあ春用のホルモンを出せと言われるような気がするのです。そうじゃないでしょう、秋は枯れる季節でしょう。




そんな感じで、この花は長年目をそむけていましたが、ツリーウォッチャーになったからにはそうもいかないので、自分の余計な刷り込みは横に置いて、よく見てくることになりました。




その結果、タイトルに書いたように、この木は、案外南カリフォルニアの秋にぴったりの木かもしれないと思ったのですよ。以下の長いエントリーを読んでいただいて、共感して下さる人がいたらうれしいな。




存在感があるので花が咲くと目立ちますが、そんなにどこにでもある程多くはないのです。本数の少ない並木になっているか、あるいは広い敷地のあるところに1~2本植えてあるという感じです。数ヶ所でツリーウォッチング してきました。


見た中で、植えてある本数が一番多いのが、下の写真の Costco の並木でした。

2016年10月6日 Costco Way,  Cypress CA

ここは我が家の近所の Costco で、裏口の方にこの並木があります。駐車場に面しているので、近付いて回りをウロウロするのに好都合でした。





まず、名前

特徴があり過ぎるので、すぐに調べがつきました。

Malvaceae (アオイ科)、Ceiba(セイバ属)

原産:南アメリカの熱帯/亜熱帯の森
学名:Ceiba Speciosa (セイバ スピチオーザ)
英語名:Floss Silk Tree(フロス シルク ツリー)
日本語名:トックリキワタ





花が満開の木や、葉っぱだけの木、巨大な実が沢山ぶら下がっている木、花も葉も何もない木などいろいろです。
2016年10月6日 Costco Way Cypress CA


この木は、若いうちは花がつかないのだそうです。ということは、ここの並木は全体的に若い木なのかな。ここの Costco は確か10年くらい前にできたのですが、出来た当初かららこの並木があったかどうかは全く記憶にありません。もう少し年月が経ったらもっと華やかな並木になるのかもしれません。



大きな花です。測ってこなかったけど...


落ちていた花。五弁の花びら。




花が咲く場合は、熱帯の樹木によくあることとして花の前に葉をほぼ全て落とすのだそうです。

が、上の写真は葉っぱもついています。なかなか定式どおりにはならない。


薄いピンクの種類も。




開きかけで、先端だけくっ付いている。開いているのよりきれい。






花は、遠くから見ても華やかですが、近くで見てもきれいですよね。

でも、冒頭に書いた理由で、どうしても無駄に華やかなんて思ってしまいますが。
で、幹となると...



幹と全体の姿

とげとげに覆われています。





とげとげ。


もっとすごい、とげとげ。


Orangethorpe Ave. Fullerton CA




とげとげしていないのも。





色は、緑色ないし灰色。




写真ではハッキリしませんが、幹の根元近くが膨らんで、多少ともトックリ型になるのだそうです。


種から育てた木の方が膨らみが顕著に出る、とあちこちに書いてあったので、私の見た街路樹は挿し木育ちかな。



また、若い木ばかりを見ているので想像しにくいのですが、この木は、数十年経つとバオバブのような姿になるのだそうです。バオバブって見たことないけど...(バオバブの写真



下の写真の中の一番背の高い木を見てください。幹はトックリのようにあんまり膨らんではいないものの、全体の姿に何となくバオバブの風格が感じられませんか?(左端のは、フロス シルク ツリーではないです。)





果実


ほとんどの木には実が着いていませんでしたが(花が咲かないから実が無い?)、中にはこんな風に沢山ぶら下がっている木もありました。



花の期間が長いので早く咲いた花から出来た実かな。それとも、前のシーズンの花から育った実かな。下の写真を見ると左下の実は、まだ小さくこれから大きくなりそうなので、今シーズンの花から出来た実だと思います。右側の実はもうちょっと大きくなった今年の実だよね、たぶんね。






下の写真、花が落ちてガクだけ残っているのを見てください。メシベが糸の様に残って垂れているでしょう。



そして、下の写真の実。ちゃんとメシベの名残がくっついています。



ダメ押しの拡大




古い実が落ちてないか探しました。掃除が入るのがデフォルトの都会の森でも必ず何かが落ちている、というのは私が割と早い段階で学んだことです。

地面をよーく見てみると、いくつか見つかりましたよ。
これは踏まれて半つぶれながら、丸ごと。





中は、もう空っぽのもあれば、




綿状のフワフワしたものが残っている実も。種はこの綿にくるまれて風に飛ぶのでしょう。






英語名の Floss Silk(“まゆ綿” のことだって)も、日本語名のトックリキワタ(徳利木綿)も、このフワフワを指しています。徳利は幹の形を指しているのだけど。



ちなみに、このフロス シルク ツリーと同じ属に、カポックという木があります。カポックはパンヤの木ともよばれ、実の中にできる綿様の繊維が詰め物に使われます。シルク フロス ツリーの実の繊維も、カポックよりは質が落ちるもののやはり詰め物になるそうです。(まるで、カポックのことをよく知っているような書き方をしていますが、本当はつい先日まで知らなかったことです)


それでも、我らがシルク フロス ツリーは、その目立つ花や、特徴のある幹や、全体の姿が好まれ、主に街路樹や観賞用の庭木になって、都会の森の構成員として働いています。


ところで、街路樹になったシルク フロス ツリーに実が沢山できて、それが熟して割れて、綿に包まれた種が風に飛ばされたら、そこらじゅうが綿だらけになるのではないかと思いますよね。でも見たことがありません。


想像ですが、たぶん実が熟する前に切り取ってしまうのじゃないかな、確信はないけど。Costco にはよく行くので、作業の現場に出くわすかもですね。




小葉が一点でつながっているので、掌状複葉。



この時期に葉が繁っているということは、花が咲かない若い木だということでしたよね。この葉はいったいいつ落ちるのでしょうね。


葉っぱについては、今のところこれだけ。






案外、南カリフォルニアの秋を象徴する木かも

さて、私にとって フロス シルク ツリーは、“見ただけで疲れるから見たくない木” からスタートして、どうなったのでしょう。

私がこの木の周りで人目を気にしながらうろうろ、立ったりしゃがんだりしたときは、ちょうど、サンタアナの風が吹きすさぶ熱暑の日にあたることが多く、独特のカリフォルニアの秋の厳しさに身をさらすことになったのです。


サンタアナの風が吹く日(サンタアナ コンディションという)は、一年中いつでも発生するものなのですが、なかでも悪名高いのは9月から10月にかけてです。(ウィキペディアの、カリフォルニア州の気候にサンタアナ風の記載があります。)


冒頭に書いたように、雨のない春と夏が過ぎた後の乾ききったところに吹き付ける乾燥した熱風は、本当に何にもいいことが無くてげんなりします。乾燥した強風のせいで空気は塵っぽくスカッと晴れずに重苦しく、とにかく気持ち良くない、悪意に満ちた風です。肩に力を入れ、目をしかめて悪意に抵抗しなくてはなりません。


そんななか、このシルク フロス ツリー のことをじっくり見たり考えたるする機会を得たら、だんだんと、この木はこの土地の秋にぴったりだと思うようになったのですよ。


トゲトゲまみれのどっしりとした幹、その幹の色は妙に生っぽい緑色、あまりにも派手な花、これ見よがしにぶら下がった実など、さりげなさのかけらもない、ふてぶてしい木です。これくらいふてぶてしいと、とサンタアナの熱風の中でも負けてないです。


まさに、カリフォルニアの秋の前半(暑い方)の代表。秋の後半はというと、まあ、カリフォルニアの緩やかな冬ですね。そのことは、またいつか。



秋にふさわしい木とはなんでしょう。もちろん人の主観なので正解があるような問いではないです。人それぞれに答えがちがうでしょう。その人が土地や季節をどう捉えるかによるし、また自分の情緒をどう表現したいかによるでしょう。

例えば、アメリカン スウィート ガム とか イチョウ のような、葉が美しく紅葉する木も色々ありますが、南カリフォルニアのきびしい秋にはかすんでしまいます。


カリフォルニア シカモア は、黄色っぽく枯れた葉がいい感じですが、この木には、四季をとおして健気に耐えている雰囲気があって、秋というよりもっと大きくカリフォルニアそのものを象徴する木のひとつに推したいところです。そういえば、カリフォルニア シカモアと同じく、この地の自生種であるカリフォルニア ファン パームにも健気に耐えている雰囲気があります。



というわけで、このシルク フロス ツリーをカリフォルニアの秋を象徴する木に推薦したいと思います。



あなたも、愛する土地のそれぞれの季節にふさわしい木を考えてみてはいかが?なかなか面白いですよ。




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このエントリーを書き始めてから一か月以上たってしまいました。実は、数日前から、日本の母の家に来ています。


外の雨音を聞きながら、“ 案外、南カリフォルニアの秋を象徴する木かも ” の後半部分を書いているところです。本当に日本は豊かな水の国ですね。枯葉さえ水気をたっぷり含んでいるように見えます。だんだんカリフォルニアの秋の実感が遠のいて行きます。