2015年1月11日

(カリフォルニアの)ユーカリのはなし その3


ユーカリのはなし その1 と 
ユーカリのはなし その2 からの続きです。


1907年から1913年のブーム

二回目のユーカリブームは、始まりも終わりもはっきりしています。

始まりは、1907年にアメリカ政府が出した “我が国のハードウッドの資源はあと15年で枯渇する。”  という文書でした。

ハードウッドとは、メープル、オーク、アッシュ、バーチなどの木材のことで、家具や床板材として好まれていたそうです。当時のハードウッドは、東部のアパラチア産の樹木に依存していました。ちなみに、ソフトウッドという言葉もあって針葉樹の木材を指すそうです。

この、15年 という分かりやすい数字が、カリフォルニア人の心を捉え、一気に燃え上がらせました。

“ユーカリがハードウッドの中でダントツに成長の早い木で、なおかつ、カリフォルニアが唯一アメリカの中でその生育に適した場所だとしたら、今こそ大儲けのチャンス!” 

今回のブームは、担い手が投資家であり、ユーカリを換金作物とみなしたのでした

大量のユーカリが、カリフォルニアの北の端から南の端まで、そして内陸にもまとまって沢山植えられました。今回もほぼすべてブルーガムです。また、1870年代のユーカリ植林地の値段が高騰しました。

新聞や雑誌が熱狂を盛り上げ、その後押しをする専門家もいました。もちろん、冷静な警告も発せられたのですが、ブームを押し上げる声が圧倒しました。

問題がありました。ブルーガムを木材として加工する方法を誰も知らなかったのです。オーストラリアの経験は当てはまりませんでした。

オーストラリアでは木材になるのは主に Jarrah(Eucalyptus marginata)というゆっくり育つ種類だそうです。一方、ブルーガムはユーカリの中でも成長が速く、さらにカリフォルニアではもっと速く育ち、短期間で大木になりました。そのことそのものが使い物になる木材ができない理由だったのだそうです。若いブルーガムから出来た木材は、どうしても歪んだり、割れたり、縮んだりしたのだそうです。

必死に様々な方法が模索されましたが、1913年、政府がユーカリは木材にならないと結論を出し、ブームが終息しました。結局二回目のブームで植えられたユーカリは収穫されないままに終わったのだそうです。

きっかけになったハードウッド資源枯渇の問題はどうなったかというと、まず、建材としてコンクリートや鉄鋼を使った構造が開発され始めました。さらに、資源枯渇の警告をうけて、それまでの乱暴で無駄の多い資源の利用を改め、持続可能な森林の管理という考え方に移行してゆきましたとさ。



その後のユーカリ

木材として切り出されなかったおかげで残ったユーカリの植林地のうち、カリフォルニア中央部の沿岸部(ベイエリアのあたり)は、ブルーガムが野生化し森が拡張したそうですが、もっと乾燥した南の方では、そうはならなかったようです(枯れた訳ではないみたいです)。

また、カリフォルニアに膨大な富をもたらしたオレンジ産業が栄えたときには、オレンジ畑の風除けとしてユーカリが再び大量に植林されたそうです。かつては、作物に行くべき水や栄養をユーカリが奪うことが問題でしたが、灌漑技術のおかげで水の供給が十分になったことや、根を切って広がり過ぎないようにしたことで、役目を果たせるようになったのだそうです。

ユーカリは、引き続いてカリフォルニアの景観を変え続けていきました。

やがて時が下って(多分、20世紀半ば以降)、都市が拡大するとともに、かつての農地や植林地が住宅地に変わり、ユーカリの多くがブルドーザーで倒されてゆき、また、道路拡張に際しては街路樹になっていたユーカリが除去されました。

ユーカリをめぐるダイナミックな変遷はこの時期で終わりだと思います。

それでもその後も、カリフォルニアの景観をつくる樹木として貢献し続けているのは確かだと思います。何らかの事情でユーカリをを切り倒すことになると、直接の利害が無くても決まって反対運動が起こるらしいです。


自分のことをちょっと語って、そろそろ終わりにします

昨年9月にサンフランシスコに行く機会があったとき、ユーカリの森を見に行こうと思っていたのです。ブルーガムが野生化して繁殖しているところを是非見たかったのです。

一緒に行動してくれていた娘にそう言うと、ちょっとユーカリを馬鹿にして、レッドウッドの方を見に行くべきだと言いました。それで、つい心が動いてレッドウッドの方に行ったのです(その時のエントリーはここ)。ごめんね、ユーカリ。こんな長いエントリーのネタになってくれているのに。

確かに、特にベイエリアでは、ユーカリが自生種を脅かすものとして否定的に見られているでしょうね。でも、このことについては、ここでは触れません。次に行く機会があったら今度こそ見に行って、そのことにも触れるかもしれません。

唐突ですが、一応終わり。




三回に分けて書いた “ユーカリのはなし” でした。主に以下の本を参考にしました

Trees in Paradise: A History of California
by Jared Farmer

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