2014年8月20日

ダーウィンに "とても醜い" と言われたヤシ、Chilean Wine Palm(Jubaea chilensis}




久しぶりにヤシ科のエントリーです。


August 16, 2014  Ball Rd. Los Alamitos, CA



学名:  Jubaea chilensis(ユーバヤ チレンシス)
英語名: Chilean Wine Palm(チリアン ワインパーム)
日本語名: ?

チリ原産の巨大なヤシ。切り倒した幹から採れる甘い汁を発酵させて美味しいお酒が造れるため、一時絶滅の危機に瀕したものの、今は回復しつつあるそう。



見慣れないヤシを発見

ヤシマニア初心者として、南カリフォルニア沿岸部の大型のヤシにはもうだいぶ馴染んできました。ワシントンヤシ属の2種、フェニックス属の2種、クイーンパームとキングパーム、それらよりやや小さめのヤシ数種などです。これらは外に出れば必ず目に入るので、日毎に目が肥えてきてますよ。

そんな中、“これは、違う”  と感じるヤシがありました。
とにかく幹が太く、羽状の葉が、ボサボサと硬い感じについています。よく通る道なので、もっと前からあったはずなのですが、やっと見えるようになったのです。

存在に気が付いたのはちょっと前なのですが、夏の陽射しがきつくて車を止めて降りるのにも決心が必要で、やっと最近になって近寄って見てきました。


歩道に沿った緑地帯に5本植わっていて、これが一番背が高い個体で、他の4本が冒頭の写真です。


August 9, 2014  Ball Rd. Los Alamitos, CA





羽状の葉の付け根にトゲが無いのでフェニックスの仲間ではないし、クイーンパームのしなやかさとは全く違います。キングパームには葉の下にクラウンシャフトという長い鞘が付いていますが、これにはないです。

August 9, 2014  Ball Rd. Los Alamitos, CA




それに何より、この幹の太さと膨らみっぷり。


August 9, 2014  Ball Rd. Los Alamitos, CA




昔、日本の植物園の温室で見たことがある トックリヤシ という名前が浮かんできました。インパクトのある形とネーミングで、大抵の人が長く覚えているヤシだと思います。そのトックリヤシのことを調べてみたら、クラウンシャフトが付いているということなので、明らかにちがいます。



いつものように、頼りにしている UFEI のヤシ科のリストをつくづくながめて当てはまるヤシを探しました。そして行き着いたのが Chilean Wine Plam私が見たのは成長しきっていない若い個体ばかりだったので今回はちょっと確信レベルが低いですが、今のところこれにします。

イマイチ確信が持てない理由は、実はもう一つあります。
ヤシのことでよく参照させてもらっている Dave's Garden というウェブサイトに、Chilean wine palm の詳しい説明があるのですが、そこに、葉が落ちた後に幹に残るマークが “平らなひし形” をしていると書いてあるのです(ここには写真もたくさん載っています)。

でも、私が見てきたヤシの幹には、平行に輪状のすじが入っていました。


August 16, 2014  Ball Rd. Los Alamitos, CA


だから種類が違うとは言えないと思うのですが、わかりません。いずれ、植物園で名札の付いた個体に出合いたいです。






とにかく巨大なヤシ、そして幹には甘い汁が詰まってる

上に紹介したリンクで、写真をご覧ください。成長した個体では高さが30メートル、幹の直径は1メートルを超えるそうです。

以前のエントリーでご紹介した カリフォルニア ファン パーム(Washingtonia filifera)も幹の太さが特筆されるヤシですが、この チリのワインパームはそれよりもまだ太いですし、背はもっと高くなるのでトータルのボリュームで遙かに勝っています。

ただし背が伸びるのは遅く、フルサイズになるには100年くらいかかるとのこと。その代りに寿命は長くて自生地には数百年の個体が多数あったそうです。

自生地は南米のチリ。地中海性気候の沿岸部斜面の限られたエリアだけに群生していましたが、冒頭に書いたように、甘い樹液が採れるため、多くが切り倒され、個体数が激減してしまったのだそうです。今は保護され、また新しく植えられて数が回復しつつあり、絶滅危惧種ではないとのこと。


イギリスにある王立植物園、通称 Kew Gardens (キュー ガーデン)のウェブサイトにもこのヤシの記載があります。ここの温室には、室内に育つ植物としては最大とされるこのヤシが植わっていると書いてあります。

その Kew Gardens のサイトに樹液の採り方が説明してありました。まず、幹を根元から切り離し、斜面を利用して幹を傾けてから先端を切るのだそうです。つまり、樹液のためには百年の大木を切り倒さなくてはならないのです。樹液は、数か月かかって300リットルくらい流れ出し、これを発酵させてお酒を造ったり、あるいは、煮詰めてシロップにしたりしたのだそうです。


自生地では辛い目に遭ったヤシですが、その圧倒的な存在感が好まれて世界各地に広まっています。耐寒性に優れていることからヨーロッパ全土、オーストラリア、さらにカナダでも育っているとのこと。かえって、ヤシには珍しく高温多湿の気候を好まず、アメリカではハワイやフロリダで育たないそう。カリフォルニアは自生地と同じく地中海性気候なので好適地です。




ダーウィンも何か言いたくなるヤシ

進化論で知られるイギリスの科学者チャールズ ダーウィンは、ビーグル号での航海中、チリでこの 巨大なヤシを見て “very ugly tree(とても醜い木)” と表現したと、上記 Kew Gardens のページにかいてありました。

ウィキペディアによると、ビーグル号が南アメリカ西海岸を北上してガラパゴス諸島にたどり着いたのが1835年9月15日のことなので、チリを通ったのはその少し前のはず。ダーウィンが25~26才の頃です。このヤシが群生しているところを見たのでしょうか。



案外、あちこちに見つかるかもしれない

名前が判明してから、以前に撮った写真のことを思い出しました。

今年の3月に見たヤシです。この時は “分からないヤシ のフォルダに入れていました。

一般住宅の前庭に、3本。(公共施設ではないので、場所の詳細は書かないことにします。)


March 6, 2014 Artesia,  CA



今見てみると、Chilean Wine Palm に見えます。葉がほぼ真っ直なところは、バドミントンのシャトルコックと表現されるこのヤシの特徴に合致しています。
March 6, 2014 Artesia,  CA


何故このヤシを庭に植えたのでしょう。

チリの出身?百年後を夢見て?それともある程度育てて売るため? 実際、このヤシはかなりの高価で買い取られるのだそうです。


もう一か所、よく買い物に行くスーパーマーケットの、道を挟んだ向かい側に、見つけました。

大きなアパートの前の、道路に面した緑地帯です。


August 8, 2014  Bloomfield Ave. Hawaiian Gardens, CA


その後、近くに寄って見てきました。合計5本の Chilean Wine Palm が植わっていました。


一番背が高いの。葉が元気無さそうに見えますが大丈夫かな。
August 16, 2014   Bloomfield Ave. Hawaiian Gardens, CA


こちらは、うんと若い個体が3本。後から植えたのか。


August 16, 2014   Bloomfield Ave. Hawaiian Gardens, CA



これも。

そして、後ろに見えるのはメキシカン ブルー パーム(Brahea armata)か。
August 16, 2014   Bloomfield Ave. Hawaiian Gardens, CA


ここにはその他にも、普通あまり見ないヤシがありましたよ。
まだ自信はないのですが、名前を大胆に予想してみます(はずれたら恥ずかしいけど、まあいいです)。


Pindo Palm(Butia capitata)

August 16, 2014   Bloomfield Ave. Hawaiian Gardens, CA


Cabbage Palm(Sabal palmetto)
これは、メキシカン ファン パーム(Washingtonia robusta)と間違われやすいヤシといわれています。同じように、葉柄の付け根が裂けて幹に残り、斜め格子模様ができていますが、はっきり感じがちがいます。







いったいどんな人がこの庭を造ったのでしょう。無類のヤシ好きだったか。想像するのは楽しいですね。

私は、まだ一年足らずの樹木ウォッチャー(街路樹ウォッチャー改め)ですが、この頃 “木は人を語る” と思うようになりました。何を考えて植えたのか、見る目のある人には手に取るようにわかるでしょうね。あ、私ではありませんよ。


とにかく、我が家から15分以内で3件の Chilean Wine Palm の植栽が見つかりました。ひょっこり目に入った物だけですから、その気になればもっと見つかるでしょう。

カリフォルニアにお住まいなら探してみてはいかが。


以上です。





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